ある日

久しぶりに彼に会った。彼は構内の掲示板を見上げていて、わたしもその後ろで同じ姿勢で板に貼ってある時間割を確認していて、その文字があまりに小さいものだから、前に立つ人の肩に顎を付押しつけんばかりに首を伸ばして目を細めていた。
前の人がふと手もとに視線をおとし、何かが顎に触れた。反射的に身を引くと、私のあごを撫でたゆるいシャツが揺れている。色褪せて苔色になった緑のTシャツと、同じ色ののキャップ。そこから覗く頬骨のかたち、細い顎、眼鏡。
「ア、」
と思わずもれそうになった声は息となって彼の背中に吐き出された。彼だった。
気づいてしまうと触れそうに近い距離にいたことに動揺して汗がふきだす。
そんな私に気付かない素振りの彼は二度三度手帳のページを繰ったあと、門の方へ行ってしまった。…