スーパーマーケットでの思考

チーズを握りつぶしたい。
水牛のチーズ 小さな硬いポリ袋に入っている。袋の上から掴むと、つるんとしたゆでたまごのような形をしていることが分かる。胎児のように乳清の中を漂っている。


《彼は手に持っていたポリ袋を、ゆっくり力ををいれて握りつぶした。
硬く締められた彼の白い五本の指の間から、ふにゃふにゃと柔らかそうなものが飛び出している。それは白く、モッツァレラチーズのような弾力をもち、彼の手に押しつぶされて苦しげに震えている。
腕に飛び散りながら破裂した液体は灰色がかった黄色ににごり、ちぎれたチーズの白い破片をところどころに漂わせながらぱしゃんと音を立てて床に落ちた。》

あと握りつぶしたい衝動にかられるものは、マシュマロ、ショートブレッド(かさかさした赤いチェックのポリ袋に入っている、人差し指くらいの大きさの外国製クッキー。これは折りたい衝動)、こだわり極エクレア、液体がたっぷり入ってアイスピロウのようになった(特に持ったときに中の形を感じるやつ)チーズ各種、モッツァレラチーズ、人形焼、あと小さなキャンディ(アイスバーグとか)には愛しさを感じる。

ハーブ系のキャンディのコーナーは近づくと袋から甘い香りがもれてくるのでよい。
シリアルのコーナーも触るのが楽しい、触るというより中の穀物やらドライフルーツやらオーツ麦やらを、大きい袋ごと掴む感じがよい。
銀座若菜の丸ごと漬け込んだきゃべつのお漬物も、たっぷりと水を含んで重たくなった袋がもれた汁を少しずつ滴らせて 売り場で元の形を保てずに、くったりと形を崩しているのもよいな。中の汁ごときゃべつを掴む感じ。重たい。
あとは解凍してふにゃふにゃになってきた冷凍のお魚。真空パックのさわらの西京漬けや、炙りサーモン。一枚の硬い板の上にサーモンが10切れほど並び、その板ごと真空パックされている。もともと凍ったままで運ばれてきたものが店の冷蔵庫で徐々に溶けて柔らかくなり、サーモンの部分をつつくと耳たぶよりも柔らかい感触。これは指でこっそりと触るのがよい。